昔、引又(ひきまた)の石屋が、川越のお殿様より野火止に造営する墓所の仕事を仰(おお)せつかった。金策をして多くの石材を買い込んだが、お城からは何のお沙汰もなく、思い余ってお役所に伺ったところ「あの仕事は他の者で間に合った。お前はもういい。」といわれた。落胆した石屋とその家族は、家に引きこもったまま幾日も泣き続けた。そのうちに泣き声や物音が聞こえなくなったので、心配して近所の人々がのぞいたところ、一家はどこにもみあたらなかった。その後、月日がたつにつれ、この哀れな話も人々の間から忘れさられていった。ある時、昔石屋のあったむかいの屋敷から大きな石材がたくさん掘り出されたので、そこはあの石屋の石置場か仕事場ではないかということであった。(本町2丁目付近の伝説)

                             哀れな石屋のはなし