カッパから相撲を仕掛けられた話

川 イメージ写真志木の引又河岸は舟だまりだった。昼下がりに戻ってきた船頭たちは、客や荷を降ろしてしまうとその日の仕事は終わりで、夏の日などは舟上で川風に吹かれながら煙草をふかし、仲間と雑談に興じたり将棋を指したりして休憩するのであった。

こうした時、一人退屈しているような船頭がいると、水の中からカッパがひょっこり現れ、舟ばたに手をかけ、「あにさん、相撲とろう」と誘うのである。
船頭たちはもともと相撲は好きなんだが、相手が子供では「なんじゃコワッパか」と相手にしないのである。
それをカッパは「なんじゃ大人のくせして、意気地のねえ弱虫じゃな」と悪態をつくのである。

駆け出しで、まだカッパの正体を知らない若者は向う意気が強いから、かっと血が頭に上り、「何じゃと、意気地なしの弱虫じゃと、たとえコワッパでも聞き捨てならねえ」と激怒するのである。
ここがカッパの手で、カッパはしめしめと腹の中で思いながら「それじゃとるか」とけしかけると若者はいっそうかんかんに腹を立て、「このコワッパめ、よくもこけにしやがったな、よし、相手になってやろう」というや舟を飛び降り河原に駆け出し「来やがれ、コワッパじゃとて容赦はしねえぞ」と取り組むなり船頭は若いだけに腹だちまぎれに軽々と高く抱え上げ、力まかせに地べたにたたきつけたのである。
若者は溜飲が降りた思いで、「みやがれコワッパめ、思い知ったろ」というと、カッパは痛そうに腰をさすりながら立ち上がり、「あにさん強いのう、も一ぺん」とせがむ。
若者は「馬鹿こけ、コワッパなど相手になるか」と、立ち去ろうとするのを、「あにさんずるいで、勝負を一度きりで逃げるのはひきょう者だ」といい返す。

若者はまた頭に来た。
行きかけた所を引き返し「ひきょう者だとう、負けたくせしやがって、性懲りもなく勘弁ならん、首の骨たたき折ってくれる、来やあがれ」と真っ赤に腹を立て四つに組んだ。

カッパの腕は左右一本につながっていて、片方を伸ばすと長く伸び力も倍強くなるので、抱きつくや腕を若者の腰にくるくるっと、二た巻き巻きつけ腰を降ろした。

若者には今度は違うのである。前のように抱え上げようとしたが腰を締めつけられるので、石うすのように重く、押しても根が生えたようにびくともしない。

若い船頭は「はて、こりゃどしたこっちゃ」と思っている間にじりじり水辺まで押し寄せられ、ここで腰をぎゅっぎゅっと締めあげられるので息苦しく、腰が伸び上った所を、カッパは、ころあいと見計らって、巻きつけた腕を一気に引き抜いたので、大きな若者の身体はくるくるとこまが回るように回わり、目をまわし、水の中にころがりこんだのであった。

カッパは、「やった」というように若者の腕をつかみ水中深く引きずりこんで行ったのであった。

「志木市史 民俗資料編1」より

 
 
 

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