カッパを相撲で負かした話

河原 イメージ写真引又河岸の老練な船頭はカッパから相撲をせびられることがあっても、相手にしないものだった。
それはカッパの本性をよく知っていて、それにカッパの肌はぬるぬるねばっこく青臭いのが嫌いだからであるが、まだ若いカッパは、老練な船頭の恐いことを知らないから、相撲しようと仕掛けるのだが相手にされないと、口からでまかせに悪態の数々を吹っかけるのである。

老練の船頭には、船頭と呼ばれることに誇りがあるので、このようなコワッパからでも、度を過ぎた悪口の数々を面と向かって吹っかけると、気が短いだけに本気に腹を立てることもあって、この時もとうとう堪忍袋の緒を切らしてしまった船頭は、「こらっ、カッパめ、よくもぺらぺら言いたい放題ほざきやがっておれさまをこけにしゃあがったな、もう勘弁ならねえ、頭の皿をぶち割ってとらせる」というや舟から飛び降り川原の水辺から離れた土手下に誘い「さあきやがれ」とかまえて待つと、カッパは腹の中で「大物がかかりやがったぞ、しめしめ」と舌なめずって「行くぞ」と叫ぶや小さな身体をふっつけて行った。

船頭は、抱きつかせては後がうるさいと、太い腕の大きな手のひらでのどわめがけて突き飛ばし、またかかって来る所を、力まかせに横っつらを右左と、続けざまにはり飛ばし突き飛ばすが、カッパの身体は柔らかで足腰が強いから、いくらふっ飛ばされても倒れることなく立ち直り抱きつきにかかって来るのである。

こうして大きな手のひらで、さんざん横っつらをはたき、のどわを突き上げている船頭のねらいは、カッパの顔を振り回し頭の皿の水を飛び散らし干し上がるのを待っているのである。

こうして、かっかと太陽が照りつける河原で、この大男で頑丈な船頭から腹立ちまぎれに容赦なく、さんざんはたかれ突き飛ばされては、小さなカッパの首は骨が抜けたように頭はふらふら、頭の皿の水もかれたのか眼はかすみ脚はふらつき青い顔になったが、それでも抱きつきにかかってゆくのである。

腹の虫が納まらない船頭は、これだけ痛めつけられながらも、なおかかって来るずうずうしさがいっそう憎らしく、容赦なくはたき突き飛ばし続けた。
その内すっかり弱ったらしくふらつくカッパに「負けましたと手をついてあやまらんか」とどなってやったのにそれでも抱きつきにかかってくるので船頭は、小さい身体を頭上高く差し上げ、力まかせに地べたにたたきつけたのであった。

さすがのカッパも、息絶えたようにあお向けに倒れ、まっ黒くはれ上がった顔で苦しそうな息の中で「あんたには負けた」といった。

船頭はこの姿を見降ろし、こんなコワッパを相手に大人気ないとは思ったが、腹の虫も納まり「思い知ったろうカッパめ、命だけはくれてやるが二度とこの辺りをほっつき廻るでねえぞう」といい残して去っていった。
船頭は「あの小さな身体ながらカッパめのしぶとさには、ほとほとあきれたもんじゃ」と思った。

それから幾時間過ぎただろう、息吹き返したカッパは、辺りを見るとすっかり日は暮れ、星がまたたき川風は涼しかったが、顔は南京カボチャのようにはれあがり、首骨はふらふらで身体中が痛み、それに頭の皿の水が干せてるんでのどが乾き、目がくらんでとても立ち上がれず、やっとのとこで四つんばいにはって水辺までたどりついて水中に消えていった。
カッパ仲間では、大船頭と坊主にはかかわるなといわれたという。

「志木市史 民俗資料編1」より 

 

 
 
 

ライフイベント